被写界深度の計算
被写界深度に関わる用語と計算式などをまとめてみた。
結論からいうと、被写界深度は、
たとえばカメラの絞り値(F値)が大きくなるほど深く(広く)なり、反対に絞り値が小さくなるほど浅く(狭く)なる(参考資料2)。
少し詳しく書くと、被写界深度は次の計算式で求めることができる(参考資料1,3)。
Tf:前方被写界深度
f:焦点距離
F: 絞り(F値)
L: 被写体までの距離(撮影距離)
δ: 許容錯乱円径
f:(焦点距離)は、使用するレンズの焦点距離といっていい。広角よりなら28mmとか35mmとか、標準が50mm、望遠よりなら105mmなど。
F:絞り(F値)は、そのままの意味。撮影時のF値(絞り)のこと。
L:被写体までの距離(撮影距離)は、カメラ本体にある「距離基準マーク」から被写体までの距離のこと(参考資料4)。レンズの先端から被写体までの距離ではない。
この円の大きさは、画素ピッチ(ピクセルピッチ、画素寸法あるは画素サイズともいう)とエアリーディスク径のどちらか大きい方なのだそう。 例えば画素ピッチのほうがエアリーディスク径が大きい場合、画素ピッチが0.03mmなら許容錯乱円も0.03になる。(記事登録後、そうとは断定できないことが分かったので以下修正。)
許容錯乱円径は一般的に下の式が目安とされている。 $$δ = \frac{撮像素子(イメージセンサー)の対角線の長さ}{1300}$$
$$= \sqrt{(撮像素子のタテの長さ)^2 + (撮像素子のヨコの長さ) ^2}$$
の計算式で求めることができる。
なお今回は便宜的に、
$$撮像素子の対角線の長さ(l) = \sqrt{(35.9)^2 + (23.9) ^2} = 43.1279・・・$$
で、長さはおよそ43.1279mmと分かる。
$$撮像素子の対角線の長さ(l) = \sqrt{(17.4)^2 + (13.0) ^2} = 21.7200・・・$$
2. 続いて許容錯乱円径を求める。
今回も、
$$許容錯乱円径(δ)= \frac{21.7200}{1300} = 0.01670・・・$$
およそ0.016mmと分かる。
被写界深度の計算式によれば、絞り(F値)をさらに絞るか、被写体までの距離をより長くするしかない。だが次の2点に留意する必要がある。
さらに詳しく書くと記事がかなり長くなるので別途メモするかも。小絞りボケをかなり気にするなら、F11くらいまでが絞りの限界かもしれない。
たとえばNikon D850で105mmのmicroレンズを使い、被写体までの距離が315mmなら、その撮影範囲は以下の通り(参考資料9)。
Nikon 850の画素数は8256×5504ピクセルなので、
$$ 107.7mm\div 8256\simeq0.013mm$$ これくらいの数値だと、対象の形状を0.1mmのスケール感で捉えるには問題ないかもしれない。ただ、AとBの資料の0.1mmの違いが分かるように比較をしようとするとちょっと厳しいかも。 この時、絞りをF11で撮影するとその被写界深度は約6.5mm。ハッキリ言ってF8の時とほとんど変わらない。
となれば、被写体までの距離を長くするほかない。絞りをF11で被写界深度を20mm程度にするには、被写界までの距離は600mmまで延ばす必要がある。
その時の撮影範囲は
Nikon 850の画素数は8256×5504ピクセルなので、
$$ 205.1mm\div 8256\simeq0.037mm$$ んー。
0.1mmのスケール感でそのカタチを記録しようとすると、このへんが限界かもしれない。
被写界深度の計算フォーム
以上をふまえて、被写界深度の計算を簡単にできるようにフォームにしてみた。
計算に必要な6つの項目を入力すると、ピントが合うおおよその範囲を調べることができる。
厳密には異なるかもしれないけれど、使ってみたい方は目安程度にどうぞ。
そのほか、撮影レンズ関係の全体的な参考資料はこちら(参考資料10)。
とりあえずここまで。
2. 被写界深度が浅い・深いってどういうこと?
3. 焦点深度、被写体深度、絞りとの関係
4. デジタル一眼レフカメラの基礎知識 – レンズ
5. 画像情報処理:レンズの基礎
7. 小絞りボケ
8. 小絞り限界計算機
9. カメラの撮影範囲の計算
10. 撮影レンズの基礎~レンズ選定編~
Contents
被写界深度
被写界深度は、ザックリ言うとピントの合う範囲のこと。デジタルカメラ等で撮影する時によく使う用語(参考資料1)。
SfM-MVS(Structure from Motion and Multi-view Stereoの略)で使う画像は、対象にピントが合っていることが重要。だからSfM-MVS用の写真を撮影する時には被写界深度を念頭に置く必要がある。
特に、遺物の細かな痕跡を対象にSfM-MVSを利用して三次元計測したいなら、知っていても損はないはず。あるいは子どもの作ったLEGOの作品をカッコイイ三次元モデルにしたいなら必須。
Photo1. LEGO作品(製作:息子)のSfM-MVSは高難度
結論からいうと、被写界深度は、
- カメラの撮像素子の大きさ
- 撮影距離(カメラから被写体までの距離
- レンズの焦点距離
- 絞り
- 許容錯乱円径
たとえばカメラの絞り値(F値)が大きくなるほど深く(広く)なり、反対に絞り値が小さくなるほど浅く(狭く)なる(参考資料2)。
少し詳しく書くと、被写界深度は次の計算式で求めることができる(参考資料1,3)。
- 被写界深度 =後方被写界深度 + 前方被写界深度で、
$$ 被写界深度 =Tr+Tf$$ - 後方被写界深度 $$Tr=\frac{\delta\times F\times L^2}{f^2- \delta\times F \times L}$$
- 前方被写界深度 $$Tf=\frac{\delta\times F\times L^2}{f^2+ \delta\times F \times L}$$
Tf:前方被写界深度
f:焦点距離
F: 絞り(F値)
L: 被写体までの距離(撮影距離)
δ: 許容錯乱円径
f:(焦点距離)は、使用するレンズの焦点距離といっていい。広角よりなら28mmとか35mmとか、標準が50mm、望遠よりなら105mmなど。
F:絞り(F値)は、そのままの意味。撮影時のF値(絞り)のこと。
L:被写体までの距離(撮影距離)は、カメラ本体にある「距離基準マーク」から被写体までの距離のこと(参考資料4)。レンズの先端から被写体までの距離ではない。
許容錯乱円
許容錯乱円は、ピントが合っていると見做す最大の円のこと(参考資料1,3,5)。許容錯乱円径は一般的に下の式が目安とされている。 $$δ = \frac{撮像素子(イメージセンサー)の対角線の長さ}{1300}$$
撮像素子の対角線の長さ
そして撮像素子の対角線の長さ(mm)は、$$= \sqrt{(撮像素子のタテの長さ)^2 + (撮像素子のヨコの長さ) ^2}$$
の計算式で求めることができる。
被写界深度の計算(具体例)
ではいよいよ具体的な事例を挙げて被写界深度を計算してみる。なお今回は便宜的に、
- 許容錯乱円径$$ δ= \frac{撮像素子(イメージセンサー)の対角線の長さ}{1300}$$とする。
- 絞り(F値)を8、被写体までの距離を315mmとする。
- 撮像素子の対角線の長さを求める
- 許容錯乱円径を求める
- 後方被写界深度(Tr)を求める
- 前方被写界深度(Tf)を求める
- 被写界深度を求める
Nikon 850 に105mm microレンズの組み合わせ
- Nikon D850の撮像素子の対角線の長さを計算
$$撮像素子の対角線の長さ(l) = \sqrt{(35.9)^2 + (23.9) ^2} = 43.1279・・・$$
で、長さはおよそ43.1279mmと分かる。
- 続いて許容錯乱円径を求める。
$$許容錯乱円径(δ) = \frac{43.1279}{1300} = 0.0331753・・・$$
ということで、およそ0.033mmと分かる。 - 後方被写界深度(Tr)は、
$$Tr=\frac{0.033\times 8\times 315^2}{105^2-0.033\times8\times315} \simeq2.4068mm$$
- 前方被写界深度(Tf)は、
$$Tf=\frac{0.033\times 8\times 315^2}{105^2+0.033\times 8\times 315}\simeq2.3706mm$$
- おおよその被写界深度は、
$$2.40+2.37=4.77mm$$
Olympus OM-D E-M1 MarkⅡ に30mmのmacroレンズの組み合わせ
- Olympus OM-D E-M1 MarkⅡの撮像素子の対角線の長さを計算
$$撮像素子の対角線の長さ(l) = \sqrt{(17.4)^2 + (13.0) ^2} = 21.7200・・・$$
2. 続いて許容錯乱円径を求める。
今回も、
$$許容錯乱円径(δ)= \frac{21.7200}{1300} = 0.01670・・・$$
およそ0.016mmと分かる。
- 後方被写界深度(Tr)は、
$$Tr=\frac{0.016\times 8\times 315^2}{30^2-0.016\times8\times315} \simeq 3.7276mm$$
- 前方被写界深度(Tf)は、
$$Tf=\frac{0.016\times 8\times 315^2}{30^2+0.016\times 8\times 315}\simeq3.6414mm$$
- おおよその被写界深度は、
$$3.72+3.64=7.36mm$$
被写界深度を深くするには?
カメラとレンズは変更せず、多焦点合成(あるいは深度合成ともいう)などの画像処理もおこなうことなく、1枚の写真の被写界深度を深くするにはどうしたら良いだろう?被写界深度の計算式によれば、絞り(F値)をさらに絞るか、被写体までの距離をより長くするしかない。だが次の2点に留意する必要がある。
- 絞りの限界(回析現象、いわゆる小絞りボケ)
- 被写体までの距離を長くすると得るもの失うもの(撮影範囲の拡大と解像度)
絞りの限界
絞りの限界は、回析現象(参考資料7)を避けるためには考慮する必要がある。回析現象が生じる絞り値は、撮像素子のサイズと総画素数による。たとえばNikon D850の場合は12.8となっている(参考資料8)。さらに詳しく書くと記事がかなり長くなるので別途メモするかも。小絞りボケをかなり気にするなら、F11くらいまでが絞りの限界かもしれない。
被写体までの距離を長くすると得るもの失うもの
被写体までの距離を長くすると、被写界深度は深くなり撮影範囲が広がる。反面1ピクセル当たりの面積は大きくなり、解像度が低下する。たとえばNikon D850で105mmのmicroレンズを使い、被写体までの距離が315mmなら、その撮影範囲は以下の通り(参考資料9)。
- 水平 0.1077 m
- 垂直 0.0717 m
- 対角 0.129384 m
Nikon 850の画素数は8256×5504ピクセルなので、
$$ 107.7mm\div 8256\simeq0.013mm$$ これくらいの数値だと、対象の形状を0.1mmのスケール感で捉えるには問題ないかもしれない。ただ、AとBの資料の0.1mmの違いが分かるように比較をしようとするとちょっと厳しいかも。 この時、絞りをF11で撮影するとその被写界深度は約6.5mm。ハッキリ言ってF8の時とほとんど変わらない。
となれば、被写体までの距離を長くするほかない。絞りをF11で被写界深度を20mm程度にするには、被写界までの距離は600mmまで延ばす必要がある。
その時の撮影範囲は
- 水平 0.205143 m
- 垂直 0.136571 m
- 対角 0.246446 m
Nikon 850の画素数は8256×5504ピクセルなので、
$$ 205.1mm\div 8256\simeq0.037mm$$ んー。
0.1mmのスケール感でそのカタチを記録しようとすると、このへんが限界かもしれない。
被写界深度の計算フォーム
以上をふまえて、被写界深度の計算を簡単にできるようにフォームにしてみた。計算に必要な6つの項目を入力すると、ピントが合うおおよその範囲を調べることができる。
厳密には異なるかもしれないけれど、使ってみたい方は目安程度にどうぞ。
そのほか、撮影レンズ関係の全体的な参考資料はこちら(参考資料10)。
とりあえずここまで。
参考資料
1. 被写界深度とは?知るとピントが深まる魔法のテクニック2. 被写界深度が浅い・深いってどういうこと?
3. 焦点深度、被写体深度、絞りとの関係
4. デジタル一眼レフカメラの基礎知識 – レンズ
5. 画像情報処理:レンズの基礎
7. 小絞りボケ
8. 小絞り限界計算機
9. カメラの撮影範囲の計算
10. 撮影レンズの基礎~レンズ選定編~